「演じる起業家」〜世界を舞台に活躍する女優起業家の話〜 7
米英合作映画の収録は、正直心臓に悪かった。
ただ頭には刺激的で、心は満たされていた。
まず映画に参加するにあたってメディカルチェックというものを受けさせられる。
つまり健康か、体力に問題ないか、妊娠していないか・・・
などを調べ、問題がなければ何かあった際に備え保険をかけられる。
ただ医師は秘密厳守の義務があるので妊娠の事実は伏せられた。
そしてパインウッドスタジオで行われた初めてのミーティングで明かされたのが、強化合宿の存在。サバイバル系の映画のため、実際に山奥でキャンプ合宿の参加を命じられた。
重いリュックは腰のベルトで固定するのでお腹を圧迫し、かなり急な崖を命綱なしで下り、体を締め付けるウェットスーツを着て冷たい海に飛び込み、ハーネスをつけてロッククライミングをした。
おそらくこれら妊婦がしてはいけない事トップ3だろう。
お腹の子供に申し訳なくて涙が出たが、口が裂けても秘密を漏らすつもりはなかった。
そして実際の収録が始まり、順調に撮り進めていたが、ひとつ心配ごとがあった。
長セリフのシーンだ。
これはオーディションの2次審査の際に一度トライしているが、正直満足いく出来ではなかった。
2次審査では監督が実際にオーディションルームに同席して指示をする。
しかし私にはその指示を理解できなかった。なんたって監督がかなり強いイギリス・スコットランドアクセントで話し始めたから・・・
パニック。それでもなんとか単語をピックアップして、最終的には何を求められるか想像はついたが、正直最悪だった。
それもあり実際にそのシーンを収録する事にプレッシャーを感じていた。
そしてそのシーンは収録最終日に行われ、リハーサルをこなした後、監督に呼び出された。
怒られると分かっている子供のごとく監督のもとへ向かったら、逆にその時私が必要としていた指導が与えられた。
・みんなに伝わる、共感できる言葉にして伝えなさい。
・笑顔でごまかすのではなく、素直に感じたことを言葉にしなさい。
・みんなが自由であることを本気で伝えなさい。
セリフの内容は、両親に束縛されている若者たちに対して、君たちは自由である、というものだった。
私自身がその時、離れているのに親の支配的言動が気に食わなかったため、全てをリアルに感じることが出来た。
自分の中で何かがしっくりきて、本番ではみんなにセリフではなく、自分の言葉を伝えることが出来た。
聞いている役者に限らず、その場にいたスタッフ・関係者の全てが私の発する言葉に耳を傾けてくれ、その場がひとつになった。
何度そのシーンをやったかは分からないが、みんなとひとつのものを作っている事自体が幸せだった。
そして、私の人生に幕がかかった。
山下結穂/Yuho Yamashita
フィルニーズヨーロッパLTD代表取締役、起業家、クリエイティブコンサルタント、起業コンサルタント、女優、そして一児の母。英国ならびにヨーロッパにて活動中。 幼少期は演劇界にて活躍。ミュージカルアニーのアニー役、NHK朝の連続テレビ小説「甘辛しゃん」にてヒロインの子供時代を演じる。 高校時代のアメリア留学を経て同志社大学入学。中途退学後早稲田大学進学、ドイツ・フライブルグ大学留学後帰国せず卒業。自然環境学学士。 現在は英国を拠点にパインウッドフィルム作品やドイツ国営放送ドラマに出演しつつ、英国、そしてドイツにて起業。その豪華客船会社キュナードにてクリエイティブコンサルタントとして映像広告を制作、また複数国のビザを所有し起業した実績をもとに、世界で起業するためのノウハウを伝授する。 Futagami氏の想いに共鳴し、この組織が海外に進出することの手助けになることを願いつつIGIRISU-NETの代表として奮闘中。
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