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佐藤しのぶ・永遠のディーバ展/東京・南青山STUMP BASEにて


©佐藤しのぶアートガーデン




Shinobu Sato Diva Forever at Stump Base in Minami-Aoyama, Tokyo



去る5月27日、28日の2日間、東京南青山にあるスタジオ、STUMP BASEにおいて世界を舞台に活躍した亡きソプラノ歌手、佐藤しのぶ氏の特別展が開催された。オペラ歌手として佐藤氏が辿った道のりを彼女が身に纏った豪華絢爛なる舞台衣装と共に紹介した展示会である。


安藤忠雄氏がデザインしたというスタジオの内装はミニマリズム・デザインで打ちっぱなしの鈍色のコンクリート。建物正面ガラス張りの入り口とのコンビネーションが洗練された重厚感を醸し出す。会場に入ると眼前に広がったのは、黄色、ホットピンク、南仏の夏の空色、そして若草色のカラフルで大胆な色遣いのロングドレスで、後ろから風を受けてたなびいていた。色とりどりの羽が着いた袖の部分は上から釣られているのでまるで空に浮かぶ女神の着るドレスがなびいているようだった。そしてバックには佐藤氏が歌う「椿姫」から抜粋されたアリアが流れていた。彼女の声はまるで撫子のようで繊細だが芯が強い日本女性美そのものだ。80着に及ぶ佐藤氏のHanae Mori Paris Haute Coutureのドレスコレクションの中から選りすぐりを展示したというが、どれもパリの工房から佐藤氏自身が選んだものばかりだそうだ。全ての舞台衣装がエレガント且つゴージャスで佐藤氏自身のようであり、色合い、デザインもセンスが良く、彼女の美的センスに驚かされると共にドレスの美しさにため息が出た。佐藤氏は長身で細くてスタイルが良かったのであろう。どれもモデルが着るようなサイズだった。どの衣装の展示の仕方も工夫されており、ティアラを頭に飾ったり、アクセサリーも身に着けていてまた指に衣装を絡ませたりとマネキンが本物の人間のように見えた。さらに、展示場奥にはたくさんのドレスがハンガーにかかっており、実際の佐藤氏のワードローブのようでもあり、会場を歩いていると生前の彼女の息吹を感じさせた。佐藤氏が森英恵氏のドレスを好んで選んでいた理由は世界を舞台に自分の才能で勝負していた森氏を自分と重ね、戦友のように慕っていたからだという。文化庁オペラ研修所を最年少、首席で卒業したのち、日本を出てミラノに留学し、その後世界のステージで羽ばたいていった佐藤氏は並々ならぬ苦労も経験したであろう。その苦労を経て培った人間としての深みと優しさは彼女がチャリティにも力を入れチェルノブイリ原発事故被曝児やバングラデシュの子供たちに寄付金を送ったりしていた事実からも汲み取れる。そして何よりオペラの中の登場人物になりきり、感情移入をして歌っていたプロ根性は蛍光ペンで自分のパートに線を引き、書き込みのしてある彼女の所有していた楽譜、そして「トスカを演じることによって自分の五官に潜む悪徳を知った」という展示場の彼女自身の語録からも感じ取れる。佐藤氏は完璧主義者であり、挑戦者だったのであろう。「自らを追い込み極端な状況を余儀なくするのが自分の欠点である」との本人の言葉からも想像できた。しかしながら天下のウィーン国立歌劇場でグラシエラ・アラヤが演じるカルメンと同じ舞台でミカエラを演じたり、また同歌劇場でトルステン・ケール演じるピンカートンを相手にタイトルロールの蝶々夫人を演じるなどの晴れ舞台を披露することができたのは、その性格がもたらした恩恵であろう。壁に飾ってあるウィーン国立劇場のキャスト・シートに彼女のと大物の共演者の名前が連なっているのが日本人として誇らしかった。


佐藤氏の世界に浸り、彼女のレガシーを伝えることは、後世の日本のオペラ歌手へのエール、また彼らの心構え形成の為のヒントになり得るだろう。ここのところ世界では東洋人と言えば中国、韓国のオペラ歌手の活躍が目覚ましいように思えるが、歌手達に限らずオペラファンも佐藤氏の遺産を目にすることで日本のオペラ界への理解・知識を増やすことに繋がり、それが日本のオペラ層に厚みを与える原動力になるのではないかと思った。そんな新しい試みの息吹を感じた展示会であった。




佐藤しのぶ・永遠のディーバ展

主催:佐藤かれん(SHINOBU SATO.JP)

クリエイティブプロデュース:水島裕作(YUSAKUMIZUSHIMA.COM)


取材協力: 佐藤かれん・岩佐美香子(佐藤しのぶアートガーデン)

     水島裕作(YUSAKUMIZUSHIMA.COM)




会場で風を受けたなびいていた、東響シェヘラザード・

2002年8月4日にサントリーホールにて佐藤氏が着用した

Hanae Mori Paris Haute Coutureのドレス©内田美穂



NHKゆく年くる年 平山郁夫 大唐西城壁画完成・

2000年12月31日に薬師寺から中継された際に着用した

Hanae Mori Paris Haute Coutureのドレス©内田美穂



NHKニューイヤーオペラコンサートにてNHKホールで着用した

Hanae Mori Paris Haute Coutureのドレス©内田美穂



モーツァルト・2000年10月22日に横浜みなとみらいホールにおいて

佐藤氏が着用したHanae Mori Paris Haute Coutureのドレス©内田美穂



1993/94シーズンにウィーン国立歌劇場で『蝶々夫人』の

タイトルロールを演じた時のキャストシート©内田美穂

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