「演じる起業家」〜世界を舞台に活躍する女優起業家の話〜 3
こんな「喜び」を掴む作業において、人間は自分の置かれている状況に盲目になる。
だから私は失敗をおかした。 今思えば、その失敗がアホすぎて笑えてくる。
日本では芸能事務所が役者の営業に回り、仕事を取ってくる。 でもヨーロッパでは自らアポを取り、映画の配役の際に役者を推薦するキャスティングディレクターに会いに行く。
そんな孤独な戦いをしている最中、ある人が電車の中で声を掛けてきた。 アメリカ英語を話す、ちょっと着飾った黒人だった。
「さっき電車であなたの姿を見て、輝いていたから気になって。」 といわれ、その頃はトゲトゲしていなかった私は「ありがとうございます。」と何気ない会話が始まった。
結局その人はニューヨーク出身の映画監督らしく、 「次回作にあなたを推薦したいから、そのために私の開催する演技のワークショップにきませんか?」 と言ってきた。
ワークショップの内容は次回のシーンの稽古だった。 参加するには20万円ほどかかるという。 その値段は、まだ新しいことに挑戦していた私には大金だった。
しかしちょっとしたチャンスもものにしたくて参加した。
その人はこれまで聞いた事がない饒舌さで私に 「君には才能があるから、いつか成功する」 なんて言うものだから、縁が切れず、結局ズルズルとドンヨリとした闇に引きずりこまれた。
その頃からショートフィルムや舞台などに呼ばれるようになっていたが、やはり長編の映画に参加することに意味があったので、そのアメリカ人の映画が実現することを期待していた。
それがアダとなり、映画の金づるであるプロデューサーにならないか、投資金は○月○日までに返すからと言われた。
断り切れずにお金を強請り取られ、そして未だに返ってきてはいない。
そして仕舞いには、芝居の中でセクシャルなことも求められた。今や映画界では当たり前だが、正直吐き気がした。
なんとかしようとすがった弁護士にも、弁護士費用を負担するべき保険会社にも中途半端にあしらわれた。
結局その映画は未だに実現していない。
その後私は閉じこもり、村上春樹の本を読みあさった。唯一の逃げ場だった。
山下結穂/Yuho Yamashita
フィルニーズヨーロッパLTD代表取締役、起業家、クリエイティブコンサルタント、起業コンサルタント、女優、そして一児の母。英国ならびにヨーロッパにて活動中。 幼少期は演劇界にて活躍。ミュージカルアニーのアニー役、NHK朝の連続テレビ小説「甘辛しゃん」にてヒロインの子供時代を演じる。 高校時代のアメリア留学を経て同志社大学入学。中途退学後早稲田大学進学、ドイツ・フライブルグ大学留学後帰国せず卒業。自然環境学学士。 現在は英国を拠点にパインウッドフィルム作品やドイツ国営放送ドラマに出演しつつ、英国、そしてドイツにて起業。その豪華客船会社キュナードにてクリエイティブコンサルタントとして映像広告を制作、また複数国のビザを所有し起業した実績をもとに、世界で起業するためのノウハウを伝授する。 Futagami氏の想いに共鳴し、この組織が海外に進出することの手助けになることを願いつつIGIRISU-NETの代表として奮闘中。