グレンジ・パーク・オペラ、ウェスト・ホーズリー・プレースの庭園
©Grade Media, Grange Park Opera
グレンジ・パーク・オペラ(GPO)音楽祭2020
Grange Park Opera, Surrey 2020
2020年6月4日 ‐ 7月19日
https://grangeparkopera.co.uk/
2020年のグレンジ・パーク・オペラ音楽祭はトラディショナルと目新しいレパートリーとのコンビネーションが魅力です。まず今年の切り札は、ポンキエッリの『ラ・ジョコンダ』。歌唱力のある歌手陣を必要とするイタリア・グランド・オペラの傑作です。シーズン後半には『若草の頃』と『ラ・ボエーム』が上演され、さらに世界初上演のオペラで、この夏、最も話題の作品になること間違いなしの『アレクサンダー・リトビネンコの人生と死』、そして最終夜には煌びやかな衣装を身に纏ったロイヤルオペラバレエのスター達を迎えて極上のバレエを披露します。
『ラ・ジョコンダ』 6月4日 ‐ 7月12日
ヴェリスモ・オペラの人気作であるポンキエッリのこのオペラは英国では2008年に上演されて以来初めての公演になります。マルタ島出身のスーパースター、テノールのジョセフ・カレヤがニューヨークのメトロポリタン・オペラでの『サイモンボッカネグラ』の上演直後にGPOで歌います。1876年、ミラノのスカラ座(GPOの‘森の劇場’のモデルになったオペラハウスです。)で初演された時、『ラ・ジョコンダ』はヴェルディの『アイーダ』(1871)と『オテロ』(1887)の間に上演された最も人気のある新しいイタリアオペラになり、その後何度も何度も繰り返し上演されました。
話の設定は17世紀のヴェニス。バラード歌手のジョコンダは不運にも宗教裁判所の悪徳スパイ・バルナダに気に入られてしまいます。エンツォに恋しているジョコンダですが恋敵のラウラに母の命を助けられます。今度はジョコンダがエンツォとラウラを守ります。しかし、悲しいかな、バルナダに気に入られたが故にジョコンダには死が待ち受けています。南アフリカのソプラノ歌手アマンダ・エチャラズがジョコンダを演じ、そしてエンツォの恋人、ラウラにはラクサンドラ・デュノーズが扮します。
『若草の頃』6月6日 ‐ 7月4日
『若草の頃』は全盛期のジュディ・ガーランドが出演した心温まるミュージカル映画。『The Trolley Song』を筆頭に『Meet Me in St Louis(セントルイスで会いましょう)』や、『Have Yourself a Merry Little Christmas』、『Under the Bamboo Tree』などヒュー・マーティンとラルフ・ブレインのコンビが作った口ずさみたくなる懐かしのヒット曲満載のミュージカルです。
時代は1903年。翌年の万博を控え街中が湧きたっているセントルイスに住む裕福なスミス家を中心に話は展開されます。皆が興奮の真っ只中、ボーイフレンドがなかなか愛を告白してくれないのでスミス家の長女ローズと次女エスターの心は沈んでいます。一方家族は父親の転勤でセントルイスから万博の前に離れなくてはなりません。。。 グレンジパークオペラはミュージカルを新たにリモデルすることが得意で、今までも「オクラホマ!」「オリヴァー!」そして「屋根の歌のヴァイオリン弾き」などのリバイバルヒットを飛ばしてきました。ジョー・デイヴィス演出の『若草の頃』も期待を裏切ることはないでしょう!
『ラ・ボエーム』6月18日 ‐ 7月11日
人気オペラとして不動の地位を保持する『ラ・ボエーム』。1830年代のパリに住むボヘミアンたちの生と死そして愛を物語るプッチーニの傑作です。1869年の初演以来、多くの人々が感動の涙で頬を濡らしてきました。
一文無しの詩人、ロドルフォとお針子のミミはお互い一目惚れします。しかしミミは深刻な病を罹っており、貧しいロドルフォは自分の無力さから別れを告げます。アメリカ人テノールのコーディ・オースティンがロドルフォを演じ、アイルランド人ソプラノ歌手、エイリッシュ・ティナンがミミを演じます。ギューラ・ナギーが絵描きのマルチェッロを演じ、そして手間のかかるマルチェッロの恋人ムゼッタをゲマ・サマーフィールドが演じます。
『アレクサンドル・リトビネンコの人生と死』世界初上演、7月16日と18日 アンソニー・ボルトン作曲、キット・ヘスケス‐ハーヴィー台本
新しいオペラを上演することはオペラ・カンパニーにとっての生命線です。2020年夏GPOはロシアによる反体制活動家の毒殺という最も物議を醸しやすいテーマを描いたオペラの世界初上演にチャレンジします。
ロンドンに亡命していた元ロシア連邦保安庁(FSB) の職員、アレクサンドル・リトビネンコはプーティンに対する徹底的な批判をしたことからFSBの元同僚たちに狙われます。そんな中、ロシアでは裏切り者は世界中のどこにいようと殺して良いという法律が成立します。2,3か月後、2006年11月にリトビネンコは放射性物質ポロニウム210を使って毒殺されます。この実話を元に創ったオペラが『アレクサンドル・リトビネンコの人生と死』です。
亡命を求めるリトビネンコのフラッシュバックとフラッシュフォワードそしてロンドン、マズウェル・ヒルにおける彼の家族の生活を通して物語られます。出演者にはFSBのチーフ役にアンドリュー・ワッツ、ボリス・ベレゾフスキー役にアンドリュー・スレーター、アレクサンドル・リトビネンコ役にはエイドリアン・ドゥワイヤー、そしてマリナ・リトビネンコ役にレベッカボットーネが扮します。ロシアの作曲家たちから引き継いだ抒情的な伝統音楽を盛り込んだボルトンの現代音楽が、大規模のオーケストラとコーラスを使って奏でられます。軍の行進曲、モスクワサッカーチームの曲、そしてチェチェンの国歌からの抜粋も聞き取れます。英語で上演されますが、ロシア語の歌も歌われます。
そしてシーズン最後にはロイヤルバレエダンサーによる『森の中のバレエ』が上演されます。
『森の中のバレエ』 7月19日
2020年シーズンの締めくくりを世界トップダンサーによる踊りで祝います。こじんまりとした森の中の劇場で、くつろぎながら最上のダンスを楽しみましょう。踊りはお馴染みのバレエ演目からの抜粋と新しいダンスのコンビネーションです。ダンサーたちの洗練されたテクニックを堪能しながら熱烈でドラマチック、また一緒に笑いたくなるようなユーモアたっぷりそして純粋に優れた芸術を楽しんでいただきます。
グレンジ・パーク・オペラはロンドンから小一時間の所に佇むキラキラ輝く宝物のようなオペラ劇場です。極上の一日が過ごせること間違いなし。この夏ぜひお運びください。
チケットの一般予約は2020年3月3日(火)より受付開始。 オンライン予約はhttps://grangeparkopera.co.uk/ または電話+44(0)01962 73 73 73で。
グレンジ・パーク・オペラ、ウェスト・ホーズリー・プレース・マナーハウス
©Grade Media, Grange Park Opera
グレンジ・パーク・オペラのオペラハウス ‘森の劇場’
© Photo by Richard Lewisohn
幕間にピクニックをする観客たち © Photo by Richard Lewisohn
幕間にピクニックをする観客たち © Photo by Richard Lewisohn
Miho Uchida/内田美穂
聖心女子大学卒業後外資系銀行勤務を経て渡英、二男一女を育てる傍らオペラ学を専攻、マンチェスター大学で学士号取得。その後UCLにてオペラにおけるオリエンタリズムを研究し修士号取得。ロンドン外国記者協会会員(London Foreign Press Association)。ロンドン在住。ACT4をはじめ、日本の雑誌にて執筆中。