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英国で教育しよう!長男の巻:パブリックスクール その6

長男の巻:パブリックスクール その6

具合の悪そうな顔をしながらもフランス語と歴史の試験を受けて帰ってきた長男はできたともできないとも言わなかった。幸いなことにそのあとは体の具合も好転し後の試験に差し障るような状態にはならなかった。後は結果を待つのみだ。イギリスの全国試験、GCSEの受験は5月から6月にかけて行われ、そして結果は8月半ばに出る。生徒たちは自分の試験が終われば後は数少ない学校の行事に出席して夏休みに入る。大きな試験が終わったという解放感に浸りながらも夏休み中GCSEの結果を気にしながら過ごさなくてはならない。ただ、この夏休みも学生たちにとっては大学入試に向けて次のステップが待っている。

セントポールではGCSEが終わった後の夏休みには大学で勉強したい科目に関係のある社会勉強をすることを推奨していた。我が家は夏休みはいつも日本に帰国していたが、長男は大学で心理学を勉強したいと思っていたので、東京都世田谷区の身体障害者が集う施設で一週間ボランティア活動をした。また世田谷区で小学生たちと飯盒炊爨をしたり、日中に屋外で一緒に遊ぶというボランティア活動にもいそしんだ。そこで彼が書いたレポートを読むと結構面白い。子供たちとしゃべってみて日本の子供たちがどんなことに興味があるかを知り、その結果、日本でも英国でも子供はそんなに変わらないと感じたようだ。そこで、なぜ大人になると議論好き、理論的、押しの強い英国人に比べ日本人は他人に対していつでも尊敬の念を持って接し、礼儀正しく丁寧でおとなしい、というような特徴が出てくるのかと疑問を持った。もともと彼は子供の頃からそのような違いがあるのではないかと思っていたようだが、日本の子供たちも無邪気で英国の子供たちとあまり変わりなく、「武士道の精神が根強く残る日本の文化が大人になるまでに日本人の特徴を作り上げ、それは後天的に得るものなのだ、ということが解った」と彼は書いている。

さて、そうこうしているうちにGCSEの結果が来た。夏休み中に長男が受け取ったGCSEの結果は9A*2Aだった。好成績で喜んでいたが、セントポールでは普通位の成績だった。そして9月になり学校が始まってすぐのある日、長男が家に帰ってきて言った。今日廊下で歴史学科長の先生とすれ違った時、「君の歴史の成績はあと1点でA*にあがるからリマーク(再度採点してもらうこと)をボードに申請した方がいい」と言われたよ。

えー?リマーク?って何それ?と私はびっくりした。

採点に不服があるときはお金を払ってボードに提出すると前回とは違う人間が再度採点してくれるシステムがイギリスではあるらしい。長男の歴史の担任に確かめると、彼女もそれを勧めてくれたので学校を通してリマークの手続きを取った。結果は一週間後に来たが、4点も上がって長男の歴史の成績はAからA*にあがったのである。これには私は本当に驚いた。人間だから採点する人が間違いを犯すこともあるかもしれないというのが前提なのだろうか。しかし一度来た全国試験の結果を覆すことができるなんて。。。お金を払って採点してもらうというのもなんか不可解な気がした。手数料ということで納得はいくが、なにかお金がある家庭が得をしているような罪悪感を起させた。もちろんリマークした場合点数が落ちる場合もある。なので、長男の場合はうまくいったが、よく考えてリマークシステムを使わなくてはならない。結局3人子供がいた我が家はリマークシステムでこの先も4度ほど全国試験の結果を覆し、成績が上がったのである。

長男が病気でGCSEのフランス語と歴史の試験が受けられないかと思った時にチューターの先生が医師証明を取っておくよう助言してくれたことも納得できる。結局長男はその医師証明を使わなかったが、多分ケースバイケースだとは思うが、試験を受けられなくとも模擬試験の結果を考慮して点数が付くなり、あるいは受けた試験の結果が悪くとも何パーセントか点が上がることもあったかもしれない。

こうしていかなる場合も自分の立場を主張し、その正当性を理論立てていくことによって自分の納得した結果を取得するのがイギリスの個人主義だ。リマークのシステムなどがあることも長男が感じたレポートのように大人になった時にイギリス人と日本人の性格が異なってくる要因の一つだと思う。

*学校区分の日英比較は大体下記のとおり。(英国日本婦人会発行『ロンドン暮らしのハンドブック』2017年5-8改訂版p。35参照)

Miho Uchida/内田美穂

聖心女子大学卒業後外資系銀行勤務を経て渡英、二男一女を育てる傍らオペラ学を専攻、マンチェスター大学で学士号取得。その後UCLにてオペラにおけるオリエンタリズムを研究し修士号取得。ロンドン外国記者協会会員(London Foreign Press Association)。ロンドン在住。ACT4をはじめ、日本の雑誌にて執筆中。

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