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英国で教育しよう!長男の巻:プレップ・スクール その3

英国で教育しよう!長男の巻:プレップ・スクール その3

人間は環境に適応する生物で一旦その地に住みだせばフル回転でそこを生活拠点にするように行動する。毎日の食材やその地に応じた衣服はどこで手に入れるかから始まり、生活に必要な電話、Wi-Fi、テレビの設置、さらにはごみ捨てはどうするかなど地域のルールにもなじまなくてはならない。引っ越しは同じ日本の中だって大変なのに、ましてや言語と文化が異なる海外の地においてはその地に慣れるまでに相当な時間と労力を必要とする。ただ幸い私は好奇心が旺盛だったし英語も話せたので、そのような生活のセットアップを、一種の冒険としてそれなりに楽しむことができた。

それでも私の頭の中では長男が環境に慣れることが最優先課題だった。子供がその場に馴染むまでは親は決して心の安寧を保てない。子供が学校に通い始めて友達が出来、勉強にも追いつけるようになり、「学校に行くことが楽しい」と言い出して初めて落ち着くのだ。なので長男に友達が出来るようひたむきに努力した。渡英後すぐに長男がナーサリースクールに入ってからは、彼の仲の良くなりたい子供たちとその母親を放課後に家に呼んでもてなした。サンドイッチとケーキと紅茶を用意してテーブルを飾り母親たちと歓談できる準備をするのはもちろんのこと、子供たちも楽しめるようおもちゃやゲームをあらかじめ用意しておいた。最初は「サンドイッチの具は何がいいだろうか」とか「紅茶の種類はどれがいいだろうか」など緊張して細かいことにまで気を使っていたのを思い出す。それでも紅茶の種類が気に入ってもらえずに恥ずかしい思いをしたこともある。今になって思い返せば、ただ単にはっきりしているだけで悪意は全くなかったのかもしれないが当時は相当ショックだった。そうやって試行錯誤しているうちにお返しに招かれはじめた。そうして呼んだり呼ばれたりを繰り返すうちにだんだん親しくなり、そのうち親も子も本当に気の合う仲良い友達ができていった。ナーサリーもプレ・プレップもプレップスクールもこれの繰り返しで八年間一途に努力したような気がする。

一方、子供が環境に馴染むには、学業でも遅れをとらないようにさせることも大切だ。プレ・プレップに入ってからは、チェス、テニス、空手、水泳といった習い事をさせると共に日本語の補習校にも通わせた。そして学校の勉強も精いっぱいさせた。長男は負けず嫌いだったので掛け算のタイムテーブル(日本で言う九九)を覚える競争で一番を目指したり、毎週あるスペリングテストでは必ず百点を取るよう勉強していた。私もそんな彼を全力で応援した。

そんな中、日本帰任の知らせ。これは海外駐在組にとっては一大事だ。日本に帰ってまた生活の基盤を一から建て始めるかと思ったら愕然として腰が抜けそうだった。かけがえのない友達を作り、長男はロンドンで一番のパブリックスクールを目指して頑張ってきたというのに、「日本に帰ってください」の一言は論理的には理解できても感情が追いつけなかった。駐在員である以上いつかは日本へ帰国することは当然であるが、駐在期間が長くなるうちに、そのことを全く予想しなくなるほど、私も長男もここロンドンが生活の中心になってしまっていたからだ。

*学校区分の日英比較は大体下記のとおり。(英国日本婦人会発行『ロンドン暮らしのハンドブック』2017年5-8改訂版p。35参照)

Miho Uchida/内田美穂

聖心女子大学卒業後外資系銀行勤務を経て渡英、二男一女を育てる傍らオペラ学を専攻、マンチェスター大学で学士号取得。その後UCLにてオペラにおけるオリエンタリズムを研究し修士号取得。ロンドン外国記者協会会員(London Foreign Press Association)。ロンドン在住。ACT4をはじめ、日本の雑誌にて執筆中。

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