Vaganova Ballet Academy:Japan Tour 2019 'Nutcracker'
ワガノワ・バレエ・アカデミー:ジャパンツアー2019『くるみ割り人形』
渋谷オーチャードホールにて上演された『くるみ割り人形』を観劇した。 まず驚いたのは、生徒たちのみで本家マリインスキーバレエとまったく同じプロダクションを上演できる層の厚さとレベルの高さである。舞台の上にいる出演者全員、しっかりと叩き込まれている基礎の美しさはまさに圧巻であった。
1幕ではやはりパーティーの子供たちのダンスが見事だった。いくつかのカンパニーで『くるみ割り人形』を見たことがあるが、今回のワガノワ版ほどパーティーのシーンで子供たちが多く出てきて、なおかつ全員揃っているのはなかなかの見ごたえであった。やはりその中でもマーシャ役のソフィア・ロマノービッチのつま先のうつくしさや丁寧に踊る姿は観客の心を掴んでいた。道化のイワン・ボドデュブニャク、ムーア人のレフ・セミノフはそれぞれレベルの高いソロで観客を盛り上げていた。
2幕は短いながらもとても見ごたえがあった。まずねずみたちの勢いの良さは、物語の勢いそのものに繋がっていたし、その後子役から主役にバトンタッチのシーンで劇場全体が一つになるほど熱気に溢れていた。雪の精のシーンではアクシデントがあり一瞬動揺が見えたものの、コールド全員が揃っているダンスは、ワガノワの伝統を感じる素晴らしさであった。
3幕ではやはり主役カップルのグランパドドゥが群を抜いて美しかった。プリンセスのリジー・アブサドジャニシビリは輝くようなオーラと可憐さ、それでいて確か実力を感じる踊りで観客を魅了していた。ステップの細かい足捌きや丁寧なバランスなど、卒業後が今から楽しみである。プリンスのアロン・オオサワ・ホロウィッツは、高いジャンプ力と豊かな音楽性で観客を大いに喜ばせていた。ソロでの大胆さと、パートナリングの丁寧さ、本人の持つジェントルな雰囲気は新たなダンスールノーブルの誕生を予感させる逸材である。二人とも今後要注目である。
今回この舞台を見て、改めてバレエ、そして舞台芸術は信頼が重要な芸術であると痛感した。ワガノワバレエの生徒たちの公演であり、やはりプロではなく、ましてはまだ幼い生徒たちも多いのだが、それでも生徒たちはそれぞれ自分たちの役を精一杯踊りきっている姿が感動的であった。バレエを始めてみる人も、多くのバレエを見ている人でも、それぞれ楽しめる公演だった。 今後ワガノワバレエアカデミーは、福岡、名古屋、大阪等巡演予定である。
ロシアのニュースでは既にジャパンツアーの様子が紹介されていました。
Kana Hashimoto/橋本佳奈
1989年生
物書き見習い。元演劇制作者。専門はイギリスバレエ•演劇•ミュージカル批評。ロンドン留学時に3ヶ月で40ステージ以上のバレエを観たほどのバレエ好き。美しい衣裳とロンドンが大好物。http://bestest-k.hatenablog.com