La Bayadère. Vadim Muntagirov as Solor and Marianela Nuñez as Nikiya ©ROH, 2018. Photographed by Bill Cooper
Natalia Makarova’s Production ‘La Bayadère’ returns to the Royal Opera House
ナタリア・マカロワ氏による「ラ・バヤデール」がロイヤル・オペラ・ハウスにて再演
19世紀ロシアの古典バレエの1つである「ラ・バヤデール」が、ナタリア・マカロワ氏の振り付けにより、今年11月、再びロイヤル・オペラ・ハウスで上演されることになった。
ナタリア・マカロワ氏はレニングラード、現在のサンクトペテルブルク出身で、13歳の時に現ワガノワ・バレエ・アカデミーに入学し、バレエ界のレジェンドと言われるナタリア・ドゥジンスカヤ氏の指導を受ける。卒業後、現マリインスキー・バレエ団に入団し、コール・ド・バレエを経験せず、即、ソリストとして活躍。その後70年代にロンドン公演中に亡命。ニューヨークのアメリカン・バレエ・シアターとロイヤル・バレエ団を中心に、各国のバレエ団のゲストダンサーとして出演していた。
フランス人の振付師、ロシアバレエの基礎を作ったとされるマリウス・プティパの「ラ・バヤデール」は1877年にインペリアル・ボリショイ劇場で初演された。それからマカロワ氏はアメリカン・バレエ・シアター用に振り付けをし直し、1980年にニューヨークでも上演が始まる。当時ロイヤル・バレエ団、プリンシパルであり、のちのロイヤル・バレエ団の芸術監督を務めたアンソニー・ドゥエル氏は、1978年から1980年の間、アメリカン・バレエ・シアターのゲストダンサーとして出演。そこでナタリア・マカロワ氏と同じ舞台で共演していた。そのような縁から、彼はこの「ラ・バヤデール」をイギリスに持ち帰り、ロイヤル・オペラ・ハウスでも上演されるようになった。
今回ロイヤル・バレエ団の「ラ・バヤデール」は多くの見どころある。ナタリア氏の振り付けは、ペティパのオリジナルの振り付けを所々に残しつつ、24人のコール・ド・バレエが39回のアラベスクを素晴らしいスキルと精密さで披露し、更にプリンシパルである、マリネラ・ヌネスの他に、ロシア人プリンシパル、ナタリア・オシポワ氏がニキヤ役とガムザッティ役の両役でデビュー、そして同じくロシア人プリンシパル、ワディム・ムンタギロフ氏もソロル役で今シーズン、デビューを果たした。マカロワ氏自身もプリンシパルたちにコーチングを行い、彼女が持っている技術を次の世代に伝承しているかのようである。
1つの舞台で、世界でもトップレベルのプリンシパル、3人を同時に観られるという事は、バレエファンとしては、これ以上の幸せなことはないであろう。また、ロイヤル・バレエ団ならではのエキゾチックなインドのエンブレムをあしらった豪華な衣装、そして第3幕で、神殿が崩壊するときに使用される映像のテクノロジー、まさに今シーズン、必見のバレエである。
そしてストーリー自体も興味深く、古代インドを舞台に、神殿に仕える巫女のニキヤ(マリネラ)と勇敢な戦士、ソロル(ワディム)と姫のガムザッティ(ナタリア)との三角関係、また、神殿の高僧でありながら巫女に邪な思いを寄せるハイ・ブラーミンの複雑に絡みあった人間の愛憎と貪欲さを描いたドラマチックな作品である。
第一幕でマリネラ演じるニキヤは純粋で可憐な踊りを披露。それは指先一本一本まで細かく表現されて美しい。ワディム演じるソロルとのパ・ド・ドゥでは、彼らの清らかな愛が溢れるような爽やかな踊りであり、そこで二人は永遠の愛を誓う。しかし王の娘、ガムザッティと結婚を命じられるソロル。ソロルとニキヤの恋仲を知ってしまうガムザッティはニキヤを宮殿に呼び出し、二人の女性は嫉妬と殺意をお互いに露わにし、話はドラマチックに展開していく。ソロルとの婚約場面では、ニキヤは高僧と共に宮殿に招待され、ガムザッティと王の策略により毒殺されてしまう。
La Bayadère. Natalia Osipova as Gamzatti ©ROH, 2018. Photographed by Bill Cooper
La Bayadère. Marianela Nuñez as Nikiya ©ROH, 2018. Photographed by Bill Cooper
第二幕目はニキヤを失ったソロルの苦悩のシーンから始まり、アヘンに溺れ、幻覚でニキヤを見るようになる。そして白い衣装の24人のコール・ド・バレエが一人一人岩陰からゆっくり、単調な動きを繰り返しながら現れる。その動きはシンクロしており、闇の中にただ白い衣装が美しく浮かび上がり、幻想的な世界を見せてくれる。この単調に見える動きは、実際にはとてもスキルとスタミナを要し、一人でも違う動きをすれば全体のバランスが崩れてしまうため、全員が全身全霊で踊るシーンの1つである。
La Bayadère. Artists of The Royal Ballet ©ROH, 2018. Photographed by Bill Cooper
La Bayadère. Artists of The Royal Ballet ©ROH, 2018. Photographed by Bill Cooper
第3幕でのガムザッティとソロルの婚礼のパ・ド・ドゥは、婚礼とは思えないほどに物悲しい音楽と、彼らもその複雑な胸の内を表現するような踊りであった。最後には人間の卑しさが、神の怒りに触れ、神殿は崩壊し、皆、生き絶える。そしてニキヤとソロルは黄泉の国で再び一緒になることができるのである。
13日(火)はこのマカロワ氏振り付けのロイヤル・バレエ団による「ラ・バヤデール」が、ロイヤル・オペラ・ハウスから世界33カ国の映画館で生中継された。
ここ最近のロイヤル・バレエ団は才能ある若手ダンサーを多く起用し、新しいバレエを披露している。このプロダクションも本当に素晴らしいものであった。