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連載小説:Every Story is a Love Story 第14話 (Only Japanese)

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持つべきものは年上の女友達2 美紀の場合 上

ロンドンに来たのは、失恋したからだ。

27歳、彼と結婚するつもりだったし、タクヤだってきっと同じ気持ちだと思ってた。

でも違ったのだ。

ごめん、美紀ちゃんの期待にはこたえられない。

2、3ヶ月前から会うたびにくだらないことでケンカしていたし、最後の1ヶ月はほとんどケンカ以外の会話はなかった。それでもタクヤの一言は予想外で強烈だった。だから何もかも嫌になって、つまらなかった仕事もやめて、1ヶ月くらいどこか外国でも行こうと決めてしまった。

でも外国なんて大学卒業旅行のハワイ以来行っていないし、そもそも一人旅もしたことないし、英語も分からないし、どうしたらいいかなって思った時に、大学時代の友達がロンドンの大学に留学していたことを思い出した。友達がいるところならいざとなったとき怖くないよねって気持ちでロンドンに決めて、そこから2ヵ月後、ロンドンに旅立った。

1週間だけブルームズベリの語学学校の観光コースに入学した。簡単な英語を午前中だけ学んで、ロンドン生活の基礎作りのつもりで呑気にゆるーく通った。部屋はかわいいフラットを借りることができたし、大学の友達、裕子と会う約束もできた。それでも気持ちは重くて、ロンドンの空もどんよりしているし、外国まできても、やっぱりテンションは上がらなかった。

ロンドンに着いて4日目、裕子とナショナル ギャラリーのカフェで待ち合わせした。久しぶりに見た裕子は、相変わらず一緒にいる人も楽しくしてしまう笑顔で現れた。 「美紀何しにロンドン来たのよー、元気?会えてうれしいよ。」 「私も会えてうれしいよー!ふられたからロンドン来た。」 「本当に?とにかくたくさん話そう。」 いろいろお互いの近況について話始めた。

裕子は今ロンドンの大学院で美術史を専攻している。いろいろ忙しいみたいだけど、毎日楽しく過ごしているようだ。 「1ヶ月いるって、学校ずっと通うの?」 「ううん、1週間だけ。だからたくさん遊んでよ。」 「私、忙しいもん、毎日は無理。でもさ、ちょっと暇なら手伝ってほしいプロジェクトあるかも。」 「なになに?気になる。」 「友達で舞台の美術セット作ってる人がいるんだけど、来週1週間、時間ある時、手伝えないかな?お金は出ないけど、面白いよ。なにより面白い人だから。」 「英語できないし美術オンチですけど、大丈夫なの?」 「大丈夫、その人日本人だし作業も難しいことはあんまりないよ。やってみなよ、わたしも日曜は手伝いにいくからさ。」 「分かった。確かに時間はあるしね。」 「よし決まり!じゃあ詳細は連絡するとして、ご飯でも食べに行こう!」 その日はそのまま思い出話に花を咲かせて解散。次の日、劇場の場所と時間、美術家さんの名前が書かれたメールがおくられてきた。

日曜日、朝10時に言われたとおり劇場にいくと絢子さんと裕子がすでに待っていた。 「おはようございます、美紀さんですよね。絢子です。手伝ってくれてありがとう!」 絢子さんは見るからにパワフルでとても気持ちのいい人だった。1週間限定で上演されるお芝居の美術を担当されていていて、主に小道具を作るのを手伝ってほしいとのことだった。

劇場の裏側に初めて入るのはドキドキする。小さな事務室みたいな部屋に若い学生たちが4,5人いて衣裳を縫っていた。美紀さん縫えないよね?じゃあ、こっちで切ったり貼ったりして!と小道具作りの指示を私と裕子に出した後、絢子さんは走り去って行った。 「絢子さん、本当にパワフルでしょ?こっちまで元気になるのよね。」 「うんすっごいパワー!」 そんなうわさ話をしながらどんどん手を動かしつつ、作業していく。気づいたら13時すぎでお昼の時間にしようと絢子さんが戻ってきた。 「ねぇそこのカフェで食べようよ、なんかおいしそうだったし。裕子ちゃんも美紀ちゃんも早くおいで。」

言われるがまま絢子さんについて行った。 「美紀ちゃんと裕子ちゃんは学生時代の友達なんだよね?どうして美紀ちゃんはロンドンに?旅行?」 「はい、まぁ、ふられちゃって。それで1ヶ月のリフレッシュ旅行です。」 「美紀ちゃんそれ旅行の理由として面白すぎるから。」 絢子さんはなぜか大笑いしていて、でもその笑いがとっても気持ちよくて私もついつい笑ってしまう。 「今日はあんまり時間ないから芝居の幕開いたら食事ゆっくりしようよ。いいね、二人とも若くてこっちも元気でる。よし、午後もよろしくね」

そんな若くもないんだけど、と思いつつパワフルな絢子さんはさくっとお会計を済ませてくれていた。なんだか男前。そのことを午後裕子に伝えると、絢子さんのそんな人柄にみんな惹かれてるんだよねーと教えてくれた。 その日は18時過ぎに解散となった。絢子さんに明日も手伝えます、とつたえるととても喜んでくれて、私まで嬉しくなってしまった。

次の日も同じ時間に行くと絢子さんが昨日とは別の若い学生さん2人と英語でやり取りしていた。おはようございます、と声をかけたら絢子さんはいきなり無茶振りしてきた。 「美紀ちゃんおはよう!この子たちに昨日の作業説明してあげて。それで一緒に作業してね。美紀ちゃん今日リーダー!よろしく!」

英語しゃべれないーっという叫び声はあっさり流され、二人の学生さんの前に取り残された。何とか身振り手振りとブロークン イングリッシュで伝える。作業自体簡単だし、すぐに理解してもらって作業を開始した。お昼過ぎに絢子さんはサンドイッチを差し入れしてくれて、作業の経過を見て安心したらしく、また嵐のように去っていった。そんなこんなをもう3日繰り返し、なんと無事に幕が上がったらしい。裕子と土曜の公演に招待してもらって一緒に観劇した。 「なんか自分の作ったものが舞台にあると感動するね。」 「そうだよね、特に美紀は手伝ってた時間長かったし、一層そう感じるよね。」 そのとき後ろからわたし達を呼ぶ声がした。

絢子さんだ。 「ふたりともありがとう、来週の日曜日あいてる?食事でもしようよ。」 パワフルな絢子さんと話していると、いろんな物事がさくさくと決まっていく。来週の日曜、パワーランチが決定した。

公演を見せてもらってからパワーランチまでの一週間、劇場に2回足を運んでみた。有名なミュージカル作品で、英語は分からなくてもそれなりに楽しめた。普段劇場なんて行ったことなかったけど、裕子と絢子さんのお陰でハードルが下がったのかも知れない。こんなこと予想外だけど、いい予想外。久しぶりに気持ちが上向いてきていることが少し嬉しい。早く日曜来ないかな、そんなことを思いながら毎日を楽しく生活していた。

つづく

原田明奈

千葉県出身アラサー女子

今作が小説家デビュー、前職はお皿洗いからパラリーガルまで幅広い。いろんなことにとりあえず首を突っ込んでみるチャレンジャー。

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