英国で教育しよう!長女の中学校受験その1
伝統的な男子校であるパブリックスクールは旧来13歳から始まるので長男と次男が、プレップスクールを終えてパブリックスクールに入学したのはyear 9だった。因みに英国の公立小学校はYear 6で終わり、公立中学校はYear 7から始まる。一方、パブリックスクールを受験する子供の大多数は、Year 8まである私立小学校・プレップスクールに行くので、公立小学校を出てyear 7から入学する子供も時々はいるが、小学校卒業の時点で公立と私立の教育システムの違いに直面する。これに比べて女の子は私立中学校(インディペンデントスクール)でも公立中学校と同じくyear 7から始まる。
さて、長男と次男が通ったプレップスクールの最終学年、Year8で受験した時の受験科目は英語、算数、地理、歴史、物理、化学、生物、ラテン語、古代ギリシャ語、フランス語、宗教と9科目だったのに対し、長女がプライマリースクールの最終学年、year 6で受験した際の科目は算数、英語、バーバル・リーズニング・テスト(言葉の組み立てから推論し答えていくテスト)そしてノンバーバル(形やパターンによって次に何が来るかを当てさせるような知能テストの種類)だけだった。これは公立小学校(プライマリースクール)を終えて公立中学校を受験する男子と同じである。この年令における習得科目または受験科目の多寡によって後々の人生が、また脳の発達や興味の発達が、変わるとは思わないが、いくら伝統とはいえ、男女、また公立校と私立校によってこれだけ異なる英国の受験システムに面食らったと同時に、男女同じように育てたいと思っている私にとっては、なんとなく腑に落ちなかった。しかしながら、プレップスクールでラテン語や古代ギリシャ語を学ばせ、それがパブリックスクールに入るのにも必要な受験科目として未だに存在するのは英国らしいのではないだろうか。なぜなら十六世紀のシェイクスピアの時代から医者や法律家、聖職者など社会の上層階級を占める職業にははラテン語が必須であり、そのため学校でもラテン語が主要教科だったからだ。その前の中世の学校は教会がキリスト教を教える為の教育施設であり、カトリックの正式言語はラテン語で聖書は全てラテン語で書かれていたから学校というところはラテン語の文法を教える所だった。十六世紀になると学校では上級生になると古代ローマ詩人のオウィディウスや、共和制ローマの劇作家のテレンティウス、またプラトンやセネカの作品を読みこなしたという。その頃学校に通っていたのは子供の労働力を必要としない裕福な男子だけだ。もちろん医者、弁護士等の職業についたのも男性だけだった。女子が義務教育によって学校に通うようになったのは19世紀の後半である。この受験システムの違いは、シェイクスピアの時代から裕福な男子だけが高等教育を受ける事ができたという歴史をに基づくものであり、それが英国エリート主義に繋がっているように思える。少なくとも10年ほど前までは間違いなくそうだったといえる。しかし、英国の教育改革は日進月歩である。最近では限られたプレップスクールだけでなく、公立校や海外からも才能のある子供達を受け入れられるよう入試科目を工夫したり、また奨学金の制度を整えたりと、どのパブリックスクールも深く気を配っている。
ただ、ヨーロッパに住んでいる限りでは、ラテン語を身につけていると人生を少しだけより楽しめるような気がする。なぜなら古代遺跡に行けばラテン語やギリシャ語で表現してある文献だらけでそれを少しでも理解できれば興味も更に湧くし、フランス語やイタリア語などラテン語系の言語はもとより、英語でもラテン語から派生している単語が多く、わからない言葉に出会ったときに想像しやすいからだ。息子達も今でも少しは覚えているのでギリシャやローマの古代遺跡に行ったときなど展示品に書いてあるラテン語やギリシャ語を読んで解説してくれたりする。しかし両方とも死語であるし、ほかにやることは山ほどあるので、勉強する必要がないと思う人がたくさんいるのも頷ける。
話は飛んだが、長男、次男と二回に渡って経験して培った中学受験のコツがまったくいかせないまま長女の中学受験長女の受験(11歳でyear 7に入学するのでこの時点での受験をイレブン・プラス【11+】と呼ぶ。)を経験することになった私は困ってしまった。暗中模索しているうちにロンドンには中学受験塾というものはないが、11+の受験の手助けをしてくれる家庭教師という存在がある事がわかったのでよい家庭教師を探すことから始めた。
(続く)
*学校区分の日英比較は大体下記のとおり。(英国日本婦人会発行『ロンドン暮らしのハンドブック』2017年5-8改訂版p。35参照)
Miho Uchida/内田美穂
聖心女子大学卒業後外資系銀行勤務を経て渡英、二男一女を育てる傍らオペラ学を専攻、マンチェスター大学で学士号取得。その後UCLにてオペラにおけるオリエンタリズムを研究し修士号取得。ロンドン外国記者協会会員(London Foreign Press Association)。ロンドン在住。ACT4をはじめ、日本の雑誌にて執筆中。