top of page

連載小説:Every Story is a Love Story 第10話 (Only Japanese)

10

文香の場合 後編

田辺さんとレミゼを見た次の日は仕事で相変わらず忙しく過ごして、土曜日はすーちゃんと買い物に行った。

いつものごとくファストファッション巡りをしたあと、軽くお茶するために近くにあったNEROに入った。 「そういえばおとといはどうだった?」 「とても楽しかったよ、実は明日も会うんだよね。」 「そうなんだ!!じゃあさ、この後、明日用の洋服買わなきゃだね。」 「そんなのいいよー、なんかそんなノリじゃないよ。マーケット行こうってなってるから、おしゃれする感じの場所じゃないし。むしろ、おすすめのマーケット教えてくれる?」 「なるほどねー。カムデンは定番過ぎるよね。ブリックレーンはこの前行ったけどまたカムデンとは違ったごちゃごちゃ感がよかったよ。れいちゃんはスピタルフィールズが面白かったって。お洋服たくさんあるってリチャードに薦められていったみたい。あと食べ物特化だったらロンドンブリッジかなぁ。」 「すーちゃんいろいろ知ってるんだね。なんか関心しちゃった。」 「そんなことないよー。それにしても明日か!私まで楽しみだ。」 すーちゃんの笑顔を見ていると、こっちまで楽しみになってきた。

そして日曜日、この前と同じ待ち合わせ場所にはもうすでに田辺さんがいた。笑いながら声をかけて、どこに行くか提案してみる。 「ブリックレーンもスピタルなんとかも両方楽しそうだな。サンデーローストにおすすめのお店はどっちからのが近いのかな?」 「それがちょうど真ん中らへんなんだよね。」 「じゃあ最初にどっちか行って、ごはん挟んでもう一つの行くってのはどうかな?俺、両方行きたい!」 「よし、じゃあそうしよう!とりあえずチューブ乗って考えよう。」

結果スピタルフィールズへ先に行くことに決定した。 リバプールストリート駅から少し歩いたところにマーケットはあった。スタイリッシュな感じで古着屋さんから個人のおしゃれなお店までいろいろあった。お互いスタイリッシュすぎてどうしていいか分からない帽子を被って大笑いしていたら意外な人が目の前に現れた。

リチャードだった。 「元気だったかい?」 「わぁ、リチャードこそ元気だった?何してるの?」 「友達と待ち合わせなんだけど、遅れるって連絡きたから散歩してたんだよ。えっとこちらは・・・」 「あー、ミスタータナベです。友人」 「おい、デート相手を紹介するのにミスターはないだろ。」 「・・・たしかに。シンヤだよ。信也さん、こちら元私の先生のリチャード。」 信也さんは少しぎこちないけど、でも笑顔でリチャードと挨拶した。このあといくパブについて聞いてみたらリチャードはたまに行く場所らしい。サンデーロースト、特にチキンがうまいと言っていた。 「あ、連絡きた。反対側にいるみたいだからそっちいくよ。それじゃ会えてよかったよ。楽しい一日を」

リチャードが行ったあとに信也さんの方を見たら、ちょうど彼もこっちを見て目が合った。思わず噴出してしまう。 「おもしろいっていうか、変人先生だったけど、いい人だったんだよね。パブではチキンがお勧めで行き方も教えてくれたよ。」 「文香ちゃん、すごい流暢に話してるからびっくりした!そうだよね、ロンドンに住んでていろんなこと知ってるし英語も話せてすごいよ!」 そうストレートに言われると、結構照れてしまって、お腹すいたから早くパブいこうってごまかしてしまった。

 サンデーローストのチキンもビーフもおいしかったし、その後のブリックレーンでも古着屋さん巡りをしてあっという間に一日は過ぎていった。 「日曜のロンドンは結構早くお店が閉まっちゃうんだけど、アールズコートに結構遅くまでやってるカフェがあるはず。時間あれば行かない?」

そう声をかけてカフェに向かった。  「文香ちゃんのお陰で思ってたよりずっと楽しいロンドン滞在になった。ありがとう。」 「なにを改まって。こちらこそ楽しかったです。ありがとう。」 「ロンドンって街自体すごく好きになったんだ。それは嬉しい誤算だな本当に。だから、ロンドンのことたまに連絡してほしい。」 「もちろん。わたし、正直ロンドンにいることに迷ってた部分もあるんだけど、信也さんのお陰でロンドンが素敵な街なんだって知ることができた。」 「そうだよ文香ちゃん。文香ちゃんが手にしているものは誰もが得られるわけではないから、その分精一杯楽しんでほしい。年上からのアドバイスだよ。」 「うん、わかった。いつ帰国なんだっけ?」 「明日。まだ実は荷造り終わってない。」 「うそー!早く帰らなきゃ!もう10時だよ。」 あわててカフェをでて駅に向かう。 「文香ちゃん、ありがとう。ロンドンのことちゃんと連絡してくれよ。」 「わかった。気をつけて帰ってね。日本ついたら連絡ください。」 一瞬見つめあったあと、お互いに笑いながらハグをしてバイバイした。

無事に日本についたよ、と信也さんは相変わらず律儀に連絡をくれて、それ以来、毎日連絡を取り合っている。お互い何を食べたとか、どんなことがあったとか、たわいもない話をお互いのペースで、でも大切な日課として、やり取りを続けている。信也さんは京都のきれいな景色の写真を送ってくれるから、私も負けじとロンドンの街角の写真を送るようになった。気がついたら、彼のお陰でロンドンが好きになっていた。ロンドンに来た当初は、寂しさもうらやましさも挫折もあってどこか斜に構えてた自分がいたけど、そんな部分はいつの間にか消えていた。信也さんは私が帰国したら京都を案内してくれるらしい。それが今からとっても楽しみだ。

つづく

原田明奈

千葉県出身アラサー女子

今作が小説家デビュー、前職はお皿洗いからパラリーガルまで幅広い。いろんなことにとりあえず首を突っ込んでみるチャレンジャー。

bottom of page