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ガーシングトン・オペラ音楽祭 (Garsington Opera Festival )

2018年5月31日-7月22日

ガーシングトン・オペラのオペラハウス©︎Clive Barda

ガーシングトン・オペラ音楽祭はグラインドボーン音楽祭に次いで古くから続いているカントリーハウス・オペラの一つだ。ロンドンから西方に小一時間ほど車を走らせた所にある石油王ゲッティ・ファミリーが領するウォームズリー・エステート内に建つオペラハウスで毎夏開催される。

今年は新しいプロダクションを4作披露する。モーツァルトの『魔的』、リヒャルト・ストラウスの『カプリッチョ』、ヴェルディの『フォルスタッフ』、そして現代イギリスの代表的作曲家セイワ-の世界初上演の『スケーティング・リンク』である。『魔笛』、『カプリッチョ』、『フォルスタッフ』はそれぞれモーツァルト、ストラウス、ヴェルディの最後のオペラであるところが興味深い。そして『スケーティング・リンク』はチリの作家、ロベルト・ボラーニョの書いた同名の暗黒小説をオペラ化したものであるが、英国出身の新進アーティストを応援することを方針に掲げているガーシングトン・オペラの面目躍如ともいえるべく、このオペラでは、キャストにスーザン・ビックリー等の大御所に加え、サム・ファーネスなどのイギリス出身の新鋭歌手を揃えている。今年は洗練された喜歌劇である『カプリッチョ』に加え『スケーティング・リンク』の鑑賞を控え筆者は今から心躍らせている。

ガーシングトン音楽祭では、観客の服装はイブニングドレスにブラックタイが慣習となっており、85分間の幕間に夕食をとるのがしきたりだ。そのため、多くの人々は広大な敷地に佇む緑色に輝くクリケット場や、満々と水を湛えた湖の周りでピクニックをする。ロングドレスで着飾る傍ら幕間のピクニック準備をするのは、出発前に時間を取られる。同じ野外オペラのグラインドボーンに行く時などは一日仕事であることを覚悟せねばならないが、一方、ガーシングトン・オペラはロンドンから割と近い距離にあるので比較的気楽に行かれる。それでもピクニックの準備をする時間がない人のために、敷地内にはレストランも完備されているので夕食をそこで取る事もできる。嬉しいことにはそのレストランではミシュラン・スター・シェフのマイケル・ノースが企画したディナーを食する事ができる。

当日は開演より大分早めに到着し、広大な敷地内にある、ウォールド・ガーデンを先ずは散策することをお勧めする。元々は十八世紀半ばにリチャード・ウッズによって設計された壁に囲まれた庭園で、上空から眺めると六角形をしている。バラ園やイングリッシュ・ガーデンのみならずクロッケー場や屋外劇場などの設備も備った歩いていて心ワクワクするような庭園である。ウォールドガーデンを散策した後はかやぶき屋根が特徴のクリケットパヴィリオンの傍にピクニックテーブルを広げ、シャンパン片手に開演までの時間を過ごそう。森林と湖に囲まれた風光明媚な環境の中で贅沢な午後のひと時を過ごす事ができる。

幕間に食事をしながら友人達と今見たばかりのオペラ談義に花を咲かせるのはなんとも愉快なひと時だし、幕前に花咲き乱れる庭園を散策したり、クロッケーで遊んだりしながらまったりと英国の夏を楽しむのはおつなもので、これら全てがガーシングトン・オペラに興を添える。ぜひともこの夏はガーシングトンで英国の夏の風物詩であるカントリーハウス・オペラを体験していただきたい。

オペラ・ハウスに隣接するバー 

湖畔でピクニックを楽しむ観客達©︎Clive Barda

ウォールド・ガーデン内

ウォールド・ガーデン内のクロッケー場で遊ぶ観客達

クリケット・パヴィリオンの傍でくつろぐ観客達

オペラ・ハウスから湖を見下ろした風景

Miho Uchida/内田美穂

聖心女子大学卒業後外資系銀行勤務を経て渡英、二男一女を育てる傍らオペラ学を専攻、マンチェスター大学で学士号取得。その後UCLにてオペラにおけるオリエンタリズムを研究し修士号取得。ロンドン外国記者協会会員(London Foreign Press Association)。ロンドン在住。ACT4をはじめ、日本の雑誌にて執筆中。

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