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連載小説:Every Story is a Love Story 第9話(Only Japanese)

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文香の場合 中編

アールズコートのホテルに滞在していると田辺さんは言っていたので、駅の改札で待ち合わせることにした。お店のスタッフとかマネージャーからさりげなくおすすめのパブやらレストランやら聞いていたので、お昼は好きそうなところで食べて、適当に観光すればいいかといくつかプランを立てておいた。

当日、アールズコートの指定した改札に向かう。ロンドンに慣れてない人を待たせては悪いと思い、早めに行ったら彼がもうすでに改札の外いたのだ。なんと律儀な人だろう。

「こんにちは!こっちです!」

改札の中から声をかけたら、田辺さんの顔は一気に笑顔になって改札を抜けてきた。

「今日はお忙しいのにありがとうございます。」

「とんでもないです、田辺さんこそ待ちましたか?」

「そんなには待ってないです、慣れない土地だから散歩も兼ねて早めに出たんです。むしろ瀬野さんこそ早く来てくださって、なんだかすみません。」

あまりの真面目さについおかしくなって笑いながら、

「もう本当に真面目なんですね、田辺さん。どこか行ってみたいところってありますか?いくつかわたしは調べたんですが、せっかくだから田辺さんが興味あるところにいってみて、その近くにあるおいしいお店行きましょうよ。」

といったら予想外の答えが返ってきた。

「実は、あのせっかくロンドンにいるから何か有名なミュージカルとか観てみたいんです…、だけど一人だと行きにくくて。よければ観にいってみませんか?なんでもいいんです。」

「なるほど、でもあんまりわたし詳しくなくて…。あ、ちょっと待ってくださいね。」やたら劇場に詳しい友人がいたことを思い出してすぐに連絡してみた。

『ねぇ、今からでもチケット取れる有名なミュージカル、教えて。』

『今日は木曜だし、夜ならオペラ座の怪人とかライオンキングとか、メジャーどころもチケット取れるよ。木曜だし昼から観たいならレミゼは?直接劇場いけばチケットは残ってるだろうし、うまくいけば安くなると思うよ。』

音速の返信のわりに情報量豊富で、どんだけれいちゃんが劇場通ってるのか気になったものの、田辺さんにレミゼはどうですか?と提案したら、二つ返事で喜んでいた。

『ありがとう、レミゼ行ってみる!』

『楽しんできてー!ピカデリーサーカスで降りて、GAPからジャパセンの前真っ直ぐ行ったらレミゼの看板みえてくるよ。』

劇場の行き方までぬかりなく教えてくれたことに感謝しつつ、すぐにピカデリーラインに乗って劇場を目指した。

あっさり劇場に到着し、チケットも無事買うことができた。1階席の前のほうが半額で買えたけど、律儀な田辺さんはどうしてもチケット代を払うと譲らず、結局買ってもらうことにした。開演までは中途半端に時間があって、しっかりランチには時間は足らないけど、観る前には何かお腹に入れておきたいよね、となった。そしたら劇場の目の前にLEONがあったからあそこはどうですか?、と提案してみる。

「ファストフードなんですけど、結構オーガニックにこだわってたり、料理も結構エスニックでおいしいんです。」

「いいですね!行ってみましょう、どんなメニューあるか楽しみだな。」

決まった瞬間、信号が青に変わりすぐにお店に到着した。

「ミートボールとサラダとかおいしそうだな、それにする!」

まだわたしが迷っている間にあっさりとメニューを決めて、たどたどしくオーダーしはじめた。なんだか一生懸命注文する姿が妙にかわいらしいな、なんて浸っていたら店員さんに声をかけられ慌てて自分も注文した。

瀬野さんの分もごちそうしたかったのに、と残念そうな顔をしてる田辺さんと適当な席に座る。この人は酒造メーカーに勤めている律儀な人、意外に情報がないことに改めて気がついた。

食べながらいろいろ聞いてみる。年齢は6つ上の31歳で、東京出身だけど、会社が京都だから3年前から京都に住んでいる。趣味は学生時代からやっている草野球。今回の出張は実は直前に決まったことで、緊張してたこと。イギリスには初めてきて、とりあえず大英博物館でミイラはみた、とうれしそうに教えてくれた。

そんなこんなであっという間に開演時間に近づき、また横断歩道を渡って劇場に戻った。

思った以上にレミゼラブルには感動してしまった。特に子役ちゃんはかわいらしいし、俳優さんたちのパワーがすごくてドキドキしっぱなしだった。横をみると田辺さんもどうやら感動していたらしく、興奮が伝わってきた。幕が下りて外に出た瞬間、すごかったね!!と感想を言い合った。

「俺、自分からミュージカル観たいっていったけど、楽しめるかわからなかったんだよね。でも思ってたよりずっと感動しちゃった。」

「わたしもー!友達に劇場通いしてる子の気持ちがわかったかも。」

「なんかさ、ミュージカル自体も面白かったけど、劇場の雰囲気というか、歴史的な建物って感じもあいまって、よかったよね。」

「そうなの!こんなに中が素敵だなんて思わなかった。」

「ちょっと早いけど、夜も食べてかえらない?」

「そうしましょ!夜は半分出させてくださいね。」

そういいながら、劇場のすぐ裏にあるスペイン料理のレストランに入った。

すーちゃんから聞いたそのお店はとてもおいしくて、値段も手ごろなのに雰囲気もとてもよかった。前菜をつまみながらいろんな話をする。気づいたら、お互いとても打ち解けていて、ほとんどタメ口になっていた。

「瀬野さんはいつまでロンドンいるの?」

「ごめんなさい。久々に人から瀬野さんって呼ばれると違和感ある。文香って呼んでくださいよー。」

「ははは、じゃあ文香ちゃん。いつまでロンドンいるの?」

「とりあえず、あと1年ちょいはビザがあるけど、どうなるかはわからないなー。」

「そうなんだ。まぁ滞在できる限り目一杯楽しんだほうがいいよ。俺にはそのチャンスはないんだから。ところで日曜日は仕事?」

「ううん、お店休みだから。」

「よければもう一回、遊びにいかない?マーケット行ってみたいんだ。」

予想外なことを聞かれてびっくりした。でも、素直にもう一回会いたいから考える前にいいよ、と答えていた。

「そうだ、わたし日曜にパブで食べられるとうわさのサンデーロースト食べてみたいの。それ付き合ってくれる?」

「お、イギリスっぽい感じだね!待ち合わせとかどうしたらいいかな?」

「家に帰ってまた調べて連絡する。おいしいところいくつか聞いてるんだ。行きたいマーケットってある?」

「うーんそれが実はそんな調べてない。ロンドンぽいところがいい。」

「じゃあブリックレーンかスピタルフィールズはどうかな?おしゃれらしいよ。」

「文香ちゃんにまかせる!」

あっという間に予定が組み立っていく。

結局トイレに行った隙に、田辺さんはお会計を済ませてくれていた。妙にそういうとことはスマートである。そのことについて軽口をいいつつ、チューブに乗ってあっという間にアールズコートについた。

「わたしはこのまま乗っていくから。今日はいろいろとごちそうになってしまってありがとうございました。でもなにより楽しかったです。」

「俺も楽しかった。恩返しができてよかったよ」

いつものくせで挨拶のハグをしたら、田辺さんはちょっとびっくりしつつ、ちゃんとハグを返してくれた。

駅を出てから一人でニヤニヤしてしまう自分がいる。日曜日が純粋に楽しみだ。

つづく

原田明奈

千葉県出身アラサー女子

今作が小説家デビュー、前職はお皿洗いからパラリーガルまで幅広い。いろんなことにとりあえず首を突っ込んでみるチャレンジャー。

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