'Cavalleria rusticana/Pagliacci' by Pietro Mascagni/Ruggero Leoncavallo at the Royal Opera House Part II
『カヴァレリア・ルスティカーナ』/『道化師』(『カヴァ&パグ(Cav & Pag)』)第二弾
ファビオ・サルトーリ(カニオ)とシモナ・ミハイ(ネッダ)©ROH.PHOTO CATHERINE ASHMORE
ダミアーノ・ミキエレットの2015年に演出した『カヴァレリア・ルスティカーナ』と『道化師』の二本立て、『カヴァ&パグ (Cav & Pag)』のリバイバルが非常に出来が良く、年末の必見オペラであることは前回書いた(2017年12月21日版参照)が、運の良いことにキャストチェンジ後に今月再び同作品を見る機会を得た。巨匠ダニエル・オーレンがタクトを振り、ブライアン・ハイメルとエリーナ・ガランチャという豪華キャストによる『カヴァレリア・ルスティカーナ』の上演に心を揺さぶられた後、新しいキャストと比較してどのような感想を持つかが非常に楽しみであった。ブライアン・ハイメルは現在私が一番気に入っているテノール歌手だが、先月は、『道化師』でも主役のカニオを演じ、『カヴァ&パグ (Cav & Pag)』二本続けて主人公を完璧にこなし観客を呻らせたのだった。
さてキャストチェンジ後の『カヴァレリア・ルスティカーナ』では、主役トゥリッドゥ(前回に引き続きブライアン・ハイメル)に捨てられる恋人役のサントゥッツァをイタリア人歌手のアンナ・ピロッジが演じた。ピロッジはサントゥッツァというシチリア島の片田舎の信心深い農民役が板についていた。そしてイタリア人かたぎによるものなのか、激しい感情を露にする時の狂おしさが真に迫っていた。もちろんガランチャは歌も演技も秀逸なのであるが、ピロッジの方が本来ヴェリズモ・オペラの持つべき、一般庶民性を如実に表していたと思う。あくまで比較上の話だがガランチャは気品がありすぎて、感情丸出しの農民役はピロッジほど似合わないと感じた。『道化師』ではブライアン・ハイメルに代わってファビオ・サルトーリがカニオを歌ったが、良く通る深みのある声でハイメル同様観客を魅了した。しかしハイメルは声に艶があってセクシーなのである。いささか太りすぎのサルトーリに比べてハイメルの方が動きも機敏で伊達なカニオだった。サルトーリのカニオは妻ネッダの浮気に右往左往してしまう善人という印象でハイメルのカニオはネッダの情事に対して怒り狂う恐ろしい人というイメージが強かった。
実は12月に『カヴァ&パグ (Cav &Pag)』を観た後、一時帰国していた日本で映画『ゴッドファーザー』3部作を観た。なぜなら友人と東京渋谷にあるシチリア料理レストラン「ドン・チッチョ」で食事をしていた時に、彼から「ドン・チッチョ」とは初代ゴッドファーザー、ヴィトー・コルレオーネの両親を殺すシチリア島のマフィアの名前であること、そして『ゴッドファーザー・パート3』ではアル・パチーノ扮するマイケル・コルレオーネの息子、アンソニーがオペラ歌手になり、シチリア島のパレルモ劇場で『カヴァレリア・ルスティカーナ』を演じることを教わったからだ。映画の中でアンソニーがトゥリッドゥを演じるので前奏曲はもとより彼の歌うシチリアーナ、「O Lola c'hai di latti la cammisa」も奏でられる。そして何よりシチリア島でマイケルが孤独に死んでいくエンディングシーンで流れるのは『カヴァレリア・ルスティカーナ』の情趣に満ちた間奏曲である。次はパレルモ劇場にこのオペラを観に行きたい。
ブライアン・ハイメル(カニオ)とカルメン・ジャンナターシオ(ネッダ)©ROH.PHOTO CATHERINE ASHMORE
ブライアン・ハイメル(カニオ)とカルメン・ジャンナターシオ(ネッダ)©ROH.PHOTO CATHERINE ASHMORE
ファビオ・サルトーリ(カニオ)©ROH.PHOTO CATHERINE ASHMORE
エリーナ・ガランチャ(サントゥッツァ)とブライアン・ハイメル(トゥリッドゥ)©ROH.PHOTO CATHERINE ASHMORE
アンナ・ピロッジ(サントゥッツァ)とブライアン・ハイメル(トゥリッドゥ)©ROH.PHOTO CATHERINE ASHMORE
Miho Uchida/内田美穂
聖心女子大学卒業後外資系銀行勤務を経て渡英、二男一女を育てる傍らオペラ学を専攻、マンチェスター大学で学士号取得。その後UCLにてオペラにおけるオリエンタリズムを研究し修士号取得。ロンドン外国記者協会会員(London Foreign Press Association)。ロンドン在住。ACT4をはじめ、日本の雑誌にて執筆中。