習い事異聞その2
そしてバレエである。私がテニスをするので習わせてみたが本人がテニスよりバレエがやりたいと言ったので、ゴールダーズグリーンにあるロシア人の先生の教えるバレエ教室に通わせてみた。私はバレエに関して全く知識がなく特にロシア方式に拘っていたわけでもないがただ単に近くて歩いて行かれるという理由だけでそこを選んだ。当然ながら、生徒の95%は親がロシア語圏、例えばロシア、カザフスタン、キルギスタン、ウクライナなどの国から来た子達だった。校長先生はもちろん英語が堪能であるが教えてくださる先生はあまり英語も出来ず長女はロシア語の環境の中でバレエを習っていた。子供だからかダンスをする上で言葉は関係ないのか分からないが、長女はロシア語が出来なくとも困る様子はなかった。ただ、かといって長年ロシア語環境にいたにも拘らず言葉が出来るようにもならなかった。
英国ではバレエにも音楽同様技術グレードの検定試験がある。日本にも支部があると思うが、エリザベス女王がパトロンで1920年に設立されたRoyal Academy of Dance(RAD)が行っている。長女が通い始めたのはロシア様式のバレエ学校だったのでRADの検定試験システムは取り入れていなかった。技術の向上と目的達成の喜びを得させることを目的としているグレードの検定試験ではあるものの、これはピアノにもいえることだが、目先の試験に追われて芸術を楽しむことを忘れてしまうことがある。長女はピアノでグレードの検定試験に挑戦していたのでバレエではむしろ検定試験に拘らない方がいいと考えたこともあり、これまた気にせずにロシア学校に入れた。
入ってみて気がついたことだが、英国式のバレエとロシア式のバレエではポイントシューズを履かせる時期が異なる。英国式では足の骨格が出来上がる11-12才ぐらいまでポイントシューズは履かせないが、長女の教室では習い始めて2年後の9才にはポイントシューズを買うように薦められた。どこのバレエショップに行っても「まだ早すぎる。ロシア方式は苛酷だ。」と言われて困った。それを先生に伝えると「早い方が慣れるからいい。」と言われ混乱したのを覚えている。結局教室の言うとおりポイントシューズを手に入れた。運が良かったのか特に骨に問題があらわれることもなく現在に至っている。また英国式の教室と異なり、そこの教室では技術にあまり拘らずどんどん舞台でパフォーマンスさせてくれた。海外の大会にも何度も行くチャンスがあった。結果として堂々と舞台で踊る度胸がつき、また踊りによる表現力が養われたと思う。自分を表現できることは生きていく上で重要なことだと私は考えているので、この点は娘にとって良かったと思っている。
ロシア人の子供達は手足が長く顔は小さくバレエのコスチュームが皆とても似合う。日本人体型の長女はそれに比べるとずんぐりしていて可哀想な気もしたが本人はそんな事も気にせず毎日のように楽しんで教室に通っていた。お陰で姿勢がよくなったし、体全体の筋力が強くなった。基礎はバレエであるが、今ではバレエに限らずストリートダンスやリリカルダンスも習い、学校でもダンスチームに所属している。(続く)
*学校区分の日英比較は大体下記のとおり。(英国日本婦人会発行『ロンドン暮らしのハンドブック』2017年5-8改訂版p。35参照)
Miho Uchida/内田美穂
聖心女子大学卒業後外資系銀行勤務を経て渡英、二男一女を育てる傍らオペラ学を専攻、マンチェスター大学で学士号取得。その後UCLにてオペラにおけるオリエンタリズムを研究し修士号取得。ロンドン外国記者協会会員(London Foreign Press Association)。ロンドン在住。ACT4をはじめ、日本の雑誌にて執筆中。