Ballet 'Sylvia' at the Royal Opera House
アシュトン作『シルビア』マリアネラ•ヌニェス
Marianela Nunez as Sylvia © Tristram Kenton ROH 2011
11/23 Royal Ballet Sylvia
アシュトン作のシルヴィア初日レビュー
主役シルヴィアをマリアネラ•ヌニェス、相手役アミンタをワディム•ムンタギロフが踊った。
シルヴィアのマリアネラは、彼女のもつ天性の明るく、人を笑顔にさせる陽のオーラを放ちながら、タイトルロールを完璧なテクニックと音楽性で踊りこなしていた。元々の陽のオーラが強く健康的な印象があるため、ジゼルなどではそのオーラが逆にハンデになり得るダンサーであったが、今回のシルヴィアはコケティッシュなニンフをその陽のオーラがより魅力的に引き立てていたといえる。また彼女の抜群の身体性は、ここにきてさらに極まった。よくコントロールされた強い身体性が彼女の音楽性を支えているのを実感した。
また2幕では、邪悪なハンターオリオンに捕らわれてエスニックな衣裳に着替えてから現れた彼女の妖艶さに、女性である自分ですらハッとしてしまうほどの美しさだった。上にも述べたが、彼女は健康的な、という表現がよく似合うダンサーである。その健康的な明るさとハッとする妖艶さ、両方を備えたダンサーとしてますますこれから円熟期を迎えていくダンサーであろう。何よりアシュトン作品の細かい足さばきも、軽やかさと正確さで最初から最後まで魅せてくれて、観客たちも大いに盛り上がった。
アミンタを演じたワディムは、やはり登場からその美しいラインに心奪われてしまう。ワディムが踊っていると、あの大きなロイヤルオペラハウスのメインステージも小さく感じてしまうほど、動きも存在感も大きく素晴らしかった。またマリアネラに対するサポートも素晴らしく、あの特徴的なリフトで登場したときもまったくのブレがなく、本当にマリアネラがニンフのように見えた。
最後のソロでは、テクニックを遺憾なく発揮し観客からはブラボーの声も飛んでいた。昇り竜のごとく勢いのある今のワディムのパフォーマンスを観れるのは観客にとってとても幸せなことではないだろうか。邪悪なハンター(というより商人風)オリオンを演じたのはプリンシパルのティアゴ•ソアレス。プリンシパルだかキャラクターも得意な彼らしく、登場から迫力があり驚かせた。
マリアネラとのマイムのやりとりも丁寧であるし、エスニックな役柄を堂々とした風格を纏い舞台の上に存在していた。またやはり彼もプリンシパルダンサーだから、ジャンプやステップで場を動かすことの出来るダンサーであることを証明した。こういったキャラクターのクオリティが高いと作品のクオリティもぐっとあがる。やはりロイヤルバレエの底力だろう。
しかし上記のキャスト以上に目が奪われたのは愛の神様エロスを踊ったバレンティノ•ズケッティだろう。威厳のある神様の姿からユーモラスでコミカルな謎のマントの男まで、幅広い演技力で観客を楽しませた。彼の演技力とコメディセンス、それを踏まえた音楽祭は目を見張るものがある。また彼のジャンプはとても力強く、それだけで彼のダンサーとしての能力の高さを感じることができた。
3幕のゴートカップル、エリザベス•ハロッドとジェームズ•ヘイは、あの恐ろしいほどステップが細かく激しいパドドゥを軽々とこなしていた。ジェームズ•ヘイや前述のバレンティノは現在ファーストソリストであるが、今の男性ファーストソリスト達は本当に魅力的でラインナップが豪華である。誰がそこから抜け出しプリンシパルに昇進するのかは今シーズンにかかっているだろう。要注目である。またソロはないけれど、パの1つ1つが美しくて目を引いたのは金子扶生である。ケガをしてなかなか苦しい数シーズンを送っていたと思うのだが、完璧なカムバックを印象づけた。彼女もプリンシパルを狙っていけるダンサーである。
初日のシルヴィアはとても盛り上がり、この公演の成功への勢いになっただろう。また別のキャスティングでもぜひ観たい、そう思わせる良い公演だった。
Kana Hashimoto/橋本佳奈
1989年生
物書き見習い。元演劇制作者。専門はイギリスバレエ•演劇•ミュージカル批評。ロンドン留学時に3ヶ月で40ステージ以上のバレエを観たほどのバレエ好き。美しい衣裳とロンドンが大好物。http://bestest-k.hatenablog.com