キャッチメント Vol.4
さて、面食らったものの次の作戦に移らねばならない。メノーラ小学校に断られたので残った二つの小学校のうちの学力の高い方、ガーデンサバーブ・ジュニアスクールに電話してみた。この学校も比較的裕福な家庭の住宅地の真ん中に立っており、オフステッドの報告書ではすこぶる評価が良い。
「もしもし、この度ゴールダーズグリーンに引っ越してきた内田と申します。2001年の7月11日に生まれた娘がおりますが、ハムステッドガーデンサバーブ小学校に編入させたいのですが、可能でしょうか?」
すると
「お宅のお嬢さんの学年は定員一杯で受け入れることが出来ません。」との返事。
「ウェイティングリストに載せていただけますか?」と頼むと、
「わかりました。空きが出次第ご連絡いたします。」と言われて電話を切った。
となると、ウェセックスガーデンしか残っていない。生徒の学力を見ても、オフステッド・レポートを読んでも「優」の評価ではなく、「良」である。公立校から始めようと決めていたし、学力的にも環境的にも家庭がしっかりしていればあまり問題ないと思っていた。また3人目を育てる母としての余裕があった。仕方ないな、とあっさり諦めて私立は選ばず、ここに通わせることにした。
ウェセックスガーデンは歩いて15分の所にあった。行きは毎朝長女と歩いて通い、帰りは車で迎えに行った。一クラスは12人ほどの少人数だった。彼女は英国で生まれ、4歳になるまで英国に住んでいた。3歳から丸一年はその頃に住んでいたベルサイズパークにあったシュタイナースクールに通っていたので、友達とも英語で話し、テレビも英語で理解していた。しかし日本に帰国し、4歳から6歳まで日本の幼稚園に通っている間に英語を全く忘れてしまったため、本人には英語の学校に通うというのはかなりのプレッシャーだったらしい。私は必ず脳の中には残っているからと思って楽観視していたので、自己紹介のために”I am Yuuki. I came from Japan.”だけ覚えさせて学校に送り出した。
英国の学校は子供を学力別グループに分け、それぞれのグループによって進み具合を変える。個人の能力を伸ばす為だ。算数などは必ずといっていいほど学力別に分かれている。ウェセックスガーデンもそうだった。算数は3つのクラスに分かれていて長女は真ん中のグループだった。一人目の子供であったら目くじらたててトップグループに入るよう家庭でも応援したと思うが、小学校で学ばなければならないことは長男、次男を育てた経験から十分わかっているつもりだった。今はまず学校に慣れることから始めようと思い、それほどグループ分けの事は気にしなかった。
英国の小学校で驚くのは、時々毛じらみが発生することだ。中学、高校になれば自然と聞かなくなるが、小学校では必ず一、二年に一度ぐらいは「クラスで毛じらみを持っているお子さんが発見されました。うつっている可能性があるので毛じらみ用の櫛でよく髪を梳きながら毛じらみがいないか確かめてください。いた場合は相応の処置をしてください。」という手紙がかならず来る。長女もウェセックスガーデンに入学して早々にうつされてきた。ただ、これは上の子達を通わせていた私立学校でもあったことなので、この時は特に驚くことなく、淡々と薬局に行って薬用シャンプーを買って来て処置した。
(続く)
*学校区分の日英比較は大体下記のとおり。(英国日本婦人会発行『ロンドン暮らしのハンドブック』2017年5-8改訂版p。35参照)
Miho Uchida/内田美穂
聖心女子大学卒業後外資系銀行勤務を経て渡英、二男一女を育てる傍らオペラ学を専攻、マンチェスター大学で学士号取得。その後UCLにてオペラに置けるオリエンタリズムを研究し修士号取得。ロンドン外国記者協会会員(London Foreign Press Association)。ロンドン在住。ACT4をはじめ、数々の日本の雑誌にて執筆中。