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ブレット・ディーンの『ハムレット』(English coming soon)


Glyndebourne Opera 2017

Hamlet by Brett Dean

2017年度グラインドボーン音楽祭*

ブレット・ディーンの『ハムレット』

グラインドボーン・オペラは英国の夏の風物詩であるカントリーハウス・オペラの代表だ。去年は、シェイクスピア没後四〇〇周年に因み、ベンジャミン・ブリテンの『真夏の夜の夢』とエクトル・ベルリオーズの『ベアトリスとベネディクト』のシェイクスピア・オペラを上演したが、今年も『ハムレット』をレパートリーに取り入れた。シェイクスピア劇の中でも「ハムレット」は多くの作曲家がオペラにしているが、これはオーストラリアの作曲家、ブレット・ディーンの手によるもので、世界で初めて上演された。

シェーンベルクのような無調音楽を、ありとあらゆる楽器が始終奏で続けるという現代音楽作品だ。打楽器奏者やクラリネット、トランペットがオーケストラ・ピットだけでなく、観客席の上段にも配置されていた。そのため様々な角度から音楽が鳴り響き、ハムレットの父の幽霊が出てくる場面などは、不気味さが倍増されて効果的だった。

また、コーラスの一部がオーケストラ・ピットにも置かれ、舞台のコーラスとの共鳴効果を生み出していた。曲調は私の好みであったが、同じテンポが最後まで休むことなく続き、第二幕でヴァイオリン・ソロが叙情的に奏でられたものの雰囲気を変えるには短すぎる等、全体を通していささか単調との印象を持たざるを得なかったのが残念だった。台本を手がけたマシュー・ジョスリンは台詞の順序や配役を変えてはいるものの全てのリブレットをシェイクスピア戯曲から取ってきており、シェイクスピア劇としての言葉の美しさも楽しめる。実力派歌手を揃え、特にタイトルロールのアラン・クレイトンの歌いぶりはハムレットへの感情移入を見事なまでに聴衆に伝えていた。バーバラ・ハニガンは第一幕ではオフィーリアの麗しさを表現しつつ狂乱シーンを下着姿で熱演する等、見事な演技力を見せつけた。タクトを振ったのはグラインドボーンの前音楽監督・ウラディーミル・ユロフスキ。彼の切れの良い、力強い指揮が、劇場のあちこちに配置されたコーラスと舞台上の歌手の歌を、さらには彼らの芝居とを見事に融和させていた。

グラインドボーン・オペラではマナーハウスの庭園を散策するのも楽しみの一つだ。緑に輝く芝の上を歩きながら、咲き乱れる花や、草を食む羊を眺めるひとときはなんとも贅沢な時間である。しかし、私が観に行った日は夕方4時でも未だ日が照りつる猛暑日だった。あまりの暑さに幕前に庭を歩くことはあきらめ、一緒に行った作曲家のルーク・スタイルたち共々皆で屋根の下のピクニック・テーブルに避難した。周囲を見回すと、30歳以下の若い観客がいつにもなく多く目に入り、普段は観客の年齢層の高いグラインドボーンであるが、この日は若者の活気に満ちあふれていた。さすが時代の枠に限られず、古今東西の老若男女を魅了するシェイクスピアの派生作品だ。この『ハムレット』のプロダクションは秋からツアーを始めるグラインドボーンツアーでも英国内数箇所で上演される** のでご興味のある方は是非ごらんあれ。

* http://www.glyndebourne.com/

**http://www.glyndebourne.com/tickets-and-whats-on/events/2017/brett-dean-hamlet/

Photo:Richard Hubert Smith

Miho Uchida/内田美穂

聖心女子大学卒業後外資系銀行勤務を経て渡英、二男一女を育てる傍らオペラ学を専攻、マンチェスター大学で学士号取得。その後UCLにてオペラに置けるオリエンタリズムを研究し修士号取得。ロンドン外国記者協会会員(London Foreign Press Association)。ロンドン在住。ACT4をはじめ、数々の日本の雑誌にて執筆中。

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